ミュージカル タイタニック その2 「完璧な技術の集大成」

! ネタバレ注意です。


やっぱり素晴らしい。(知ってた)
タイタニック観劇の感想その2です。

まず、ぜったい1階席で観たほうがいい!
けっこう1階の通路を使っていたので、2階席からだとどういう演出なのか見えないんです。

初見、2階から観てるときは
<あれーなんか階段降りて行ったな>ぐらいにしか思わなかったんですが、
そのとき実は通路を効果的に使ってお芝居してたんですね!

これは前すぎても分からないので、1階の半分から後ろがエエ感じだと思います。

 


にしても日本青年館はすさまじい傾斜(国立競技場かと思った)を誇っていますね。好き。

 


その日本青年館の座席数は1200強だそうで、
タイタニック号で亡くなられた方の人数(1500人以上)のほうがずっと多い。

劇場を見渡すと、そんな感傷に浸ってしまいます。

 


さて本番。
<舞台 野球>と同じ現象が起きていました。
最後どうなるか分かっているので、オープニングからまあ号泣ですわな。

これがこう、あそこに繋がるから・・・って、脳が勝手に反応して涙流すんですよ。
抗えないですよ。

 


今回は二等客のエドガー・ビーン&アリス・ビーン夫妻に注目してみました。

初見ではアリスさんめっちゃグイグイ行く変な女だな、くらいなイメージだったんですが、
彼女は<階級を超えて>、<よりよい未来を掴もうとする>ガッツ溢れる前向きな女性だったんだなーと感じました。
諦めない女。

演じる霧矢大夢さんがめちゃキュートなんで、一等客のパーティーに紛れ込んではしゃぐ姿とか超かわいい。

『アンドリュースさん!私と踊りましょ!』

周りの一等客は皆さん夫婦で参加しているので、唯一<ぼっち参戦>の加藤和樹さんに狙いを定めて突撃(ロケットダッシュ)していく姿が爽快です。

 


その夫・エドガーさんは徹底的なリアリスト。

演じる栗原英雄さんが、まことに おダンディーでいらっしゃる。

小さな金物屋の主人と妻・・・という現状に満足しよう、させようとする<諦めた男>。
ビッグになるのは諦め、アリスの暴走も諦め、そして最後は生き残ることも諦めた。
・・・と書くと凄いシリアスぽいですが、このお二人は出てくるたび夫婦漫才というか、エドガー★アリスの珍道中★て感じです。癒し。

癒しの夫婦なのに、だからこそ大混乱の中での『別れ』がつらい。
『ワガママばっかり言ってごめんなさい!!!』
これがアリスとの最後の会話。
ほんの数十秒。
必死にアリスを救命ボートに乗せるエドガーさん。


ほんとに栗原さんが、いと おダンディーであらせられる。
(乗客の中で唯一、船の速度が出過ぎていることに気付く・・・只者ではない男)

 

 

 


そしてそして、ストラウス夫妻!!!!
出演者も大絶賛、究極のラブソング『今でも』を歌い上げるストラウス夫妻!

沈没の時が刻一刻と迫るなか、二人でシャンパンを傾け、微笑み、小洒落た会話を楽しむ二人だけの空間。

あれもう天国だと思うんですよね。
とっくにタイタニック号は沈んでいて、あのシーンは天国でも仲睦まじく暮らす二人の部屋だと思うんです。

それくらい静かで、美しく、慈愛に満ちた時間でした。
世界は二人の為に。

 


初見はジム&ケイトと、
チャールズ&キャロラインという若いカップルに心奪われていたので、

今回はビーン夫妻(中年)と
ストラウス夫妻(熟年)に注目してみました。

 

 

そして、一等客室係のエッチスさん。
上流階級のお客様を一流のおもてなしで迎える、プライド高い紳士。

わりと階級差別が強めの人ですけど、彼の態度・セリフのおかげで
登場人物の立場・境遇が分かりやすくなります。

ストラウス夫妻やキャロラインお嬢様にはうやうやしく頭を垂れ、
二等客のビーン夫妻には興味なし。(問題児アリスにはうんざり)
三等客のケイトちゃん達はネズミ呼ばわり。

そのくせバンドマスター・ハートリーのオンステージでは誰よりノリノリで歌い踊る。
(エドガーいわくクソダンス)

たぶん、日頃(サービス業)のストレスをあそこで一気に爆発させたんだと思います。
そうでなきゃ、あのハジケっぷりは説明がつかない。

 

 

続いて歌唱力で殴ってくるバレットさん。

乗船前
ボイラー室
通信室
じつに3つの場面でメインを張る機関士バレット。
1幕の主人公と言っても過言ではない。

えっ世界一歌が上手い・・・

特にボイラー室~一等客食堂で歌う『バレットの歌』は圧巻です。

エモいけど上手い。
上手いからエモい。

 


衣装も素敵なタイタニック
クルー→制服(かっこいい)
一等客→ドレス(ゴージャス)
二等客→ドレス(おしゃれ)
三等客→たぶん手持ちの中で一番上等な服(質素)

で、バレットだけがいつも汗と汚れまみれの作業着なんですけど、
そのボロい服と上手すぎて力強くて艶があって上手すぎる歌声のミスマッチ? ギャップ? で
ウオアーーーーーーー(心の中で平伏し)
と なります。


歌唱力で急所を的確に殴ってくる藤岡さんでした。

 

 

 

 


最後に、イスメイと悪夢。

物語は、『生き残ったオーナー・イスメイが記者達に糾弾される』シーンから始まります。

そこから時間が遡って、タイタニック号は乗り込む人々の夢や希望で満たされて出航します。

イスメイさんは我が物顔で(たしかに船はオーナーの物です・・・)

『速度を22ノットにあげろ!』
『あと3日でニューヨークに着け!』

などと船長を急かす急かす。


見栄とか虚勢とか色々混ざってるんだと思うんですけど、ある意味一番『タイタニック号に夢を懸けた』人だったのかもしれません。


ラストシーンで、「生き残った人々」と「亡くなった人々」が交差し、別れ離れて、オープニングの希望溢れる歌が再現されます。


同じようで全く違う。
エドガーは「そこにいないアリスの」肩を抱き、
チャールズは「そこにいないキャロラインと」腕を組む。

晴れやかな笑顔で歌いあげる設計士アンドリュース、船長、航海士、クルー、乗客の面々。

 

その隙間を、思い詰めた表情でフラフラと彷徨うイスメイ。
まるで迷子のようです。

 

あれはきっと、イスメイの悪夢。
どれだけ自分を正当化しても逃れられず、そこに辿り着いてしまう。


豪華客船タイタニック号は、みんなの夢。

それはイスメイの悪夢。

・・・と、初見では『イスメイめたくそ嫌な奴!』と思ってたんですが、オーナーのその後の人生とか考えると・・・一概には言えないですし、
彼が生き残ったからこそ次代に繋げたものもある。

 

 


・・・というわけで、いやーほんと観て良かった行って良かった。
柿も美味しいし、サイコーの秋です。

ありがとうございました!